日本で初めて人材を採用する企業へ: 日本市場に参入する外資系企業のための実践ガイド

September 16, 2026 11:00

 

米国に本社を置くある企業が日本法人を設立し、東京にオフィスを構えました。市場参入の準備は順調に進み、続いて最初の現地人材の採用にも取りかかりました。

しかし、実際に採用を進めると、賞与制度や試用期間終了後の扱い、レポートラインなど、日本で人材を雇用するうえで決めておくべき点が十分に整理されていないことが分かりました。米国の雇用契約書を一部修正して作成したオファーでは、候補者からの質問にHR責任者が十分に答えられなかったのです。

日本市場への参入準備に比べ、こうした「最初の採用」に必要な準備は見落とされがちです。しかし、その多くは事前に整理しておくことで避けることができます。

本記事では、日本で初めて人材を採用する外資系企業のHR担当者や事業責任者に向けて、本国の採用慣行をそのまま日本に当てはめた場合に起こりやすい課題と、採用を適切に進めるためのポイントをご紹介します。

 

最初の採用が重要な理由

日本で最初に採用する人材は、単なる実務担当者にとどまらず、正式な役割が定められる前から、事実上の日本側の代表となるケースも少なくありません。

また、日本では解雇や試用期間に関する考え方が他国と大きく異なるため、採用初期の判断を誤ると、後からの修正が難しく、想定以上のコストにつながる可能性があります。

さらに、最初に採用した人材がその会社でどのような経験をするかは、その後の採用にも影響します。業界内や人材同士のネットワークを通じて評判が広がることもあるため、最初の採用は将来の採用活動にも関わる重要な判断です。

 

最初の人材を誰が、いつ正式に雇用できるのか

採用を始める前に、まず誰が正式な雇用主になるのかを確認する必要があります。日本法人がまだ設立されていない、または設立手続き中の場合、原則としてその法人が直接人材を雇用することはできません。特に、法人設立前に優秀な候補者が見つかり、早く採用を進めたい場合には注意が必要です。

多くの多国籍企業は、このタイミングのずれに対応するため、Employer of Record(EOR)サービスを利用し、法人設立が完了するまで最初の従業員を合法的に雇用し、その後、新法人へ雇用を移します。これは非常に有効な仕組みですが、メリットとデメリットを考慮して判断する必要があります。

EORの利用には通常、継続的なサービス料が発生し、その後、新たに設立した法人へ雇用を移管する際にも別途手続きが必要です。そのため、数週間以内に法人設立を予定している場合は、短期間のためにEORを利用するよりも、法人設立の完了を待つ方がシンプルなケースもあります。

一方、法人設立までに時間がかかる場合や、採用を急がなければ優秀な候補者を競合他社に取られてしまう可能性がある場合には、EORの活用が有効な選択肢となります。EORの活用が、優秀な人材を確保できるかどうかを左右することもあります。

どの方法を選ぶかによって、採用スケジュールやコスト、そして採用した人材が実際に業務を開始できる時期も変わってきます。企業側の雇用体制が整わないまま候補者がオファーを承諾してしまった後ではなく、採用を開始する前に、どの方法が適切かを法務の専門家に確認しておくことが重要です。



 

日本で雇用条件を決める際に注意したいポイント

欧米では一般的な雇用慣行であっても、そのまま日本に適用できるとは限りません。外資系企業が日本で初めて人材を採用する際には、特に注意すべき3つの違いがあり、対応を誤ると実務上の問題につながる可能性があります。

 

解雇に関するルールは他国と大きく異なる

多くの国では、一定の通知を行うことで比較的柔軟に雇用を終了できる場合があります。一方、日本では従業員の雇用が強く保護されており、解雇には正当な理由が求められます。

そのため、本国と同じルールが適用されると考え、雇用契約書や試用期間をそのまま日本向けに運用すると、思わぬリスクにつながる可能性があります。

例えば、米国の雇用契約書を一部修正して日本で最初の人材を採用したものの、入社後にパフォーマンス上の問題が発生し、想定していた条件では簡単に雇用を終了できないことが判明するケースもあります。結果として、当初から日本の雇用慣行に合わせて契約内容を整えておく場合よりも、対応に時間やコストがかかる可能性があります。

なお、これは一般的な情報であり、法的助言ではありません。雇用契約や解雇に関する判断については、日本の雇用法に詳しい専門家へ確認することが重要です。


 

雇用条件は書面で明確にしておくことが重要

日本では、候補者にとっても、労務管理の観点からも、業務内容や勤務時間、報酬などの条件を採用時点から書面で明確にしておくことが重要です。

他国では、立ち上げ初期の採用で職務内容がある程度曖昧でも問題にならないケースがありますが、日本で最初の人材を採用する場合は、混乱やトラブルにつながる可能性があります。特に現地チームがまだない場合は、業務内容や役割について周囲に確認できる環境がないため、あらかじめ書面で明確にしておくことがより重要です。


 

試用期間の考え方も他国とは異なる

日本では、試用期間中であっても、簡単に雇用を終了できるわけではなく、原則として正当な理由が必要です。

他国での慣行をそのまま当てはめ、試用期間を「まずは雇って様子を見るための期間」と捉えてしまうと、思わぬリスクやコストにつながる可能性があります。


 

押さえておきたい給与・福利厚生

社会保険:一定の労働時間の基準を満たす従業員は、原則として社会保険への加入が必要です。健康保険や年金などの保険料は、企業と従業員がそれぞれ負担します。

・賞与:法的に必須ではない場合でも、日本の多くの業界では、年2回程度の賞与が給与・報酬の一部として一般的に期待されています。候補者はこうした慣行を基準にオファーを比較することが多く、基本給だけでは競争力があるように見えても、賞与を含めて考えると見劣りする場合があります。

・通勤手当:通勤手当は、比較的短い通勤距離であっても、基本給とは別に支給されることが一般的で、期待される福利厚生の一つです。

・報酬水準:給与や待遇を設定する際は、日本市場の最新データを基準にすることが重要です。他国における「競争力のある給与」という本社側の想定をもとに報酬を設定すると、日本市場の実際の水準より低すぎたり、高すぎたりすることがあります。低すぎれば候補者を逃す可能性があり、高すぎれば、その後に採用する人材の給与水準にも影響します。

 

外資系企業が最初の採用で陥りやすいポイント

Reeracoenが日本で採用を行う外資系企業を支援してきた経験では、業界を問わず、同じような課題が繰り返し見られます。その多くに共通しているのは、本国での採用慣行や考え方を、そのまま日本市場にも当てはめてしまうことです。

・本国の契約書テンプレートをそのまま使う
日本の雇用慣行に合わせて契約書を作成せず、本国の契約書テンプレートを一部修正しただけで使用してしまう。

・採用に必要な期間を短く見積もる
特に最初の採用では、現地で会社を代表できるような幅広い対応力を持つ人材が求められることが多く、業務範囲が限定された専門職に比べて採用が難しくなる傾向があります。

・レポートラインや意思決定の権限を明確にしない
日本で最初に採用した人材は、正式な役割が定められる前から事実上の現地責任者となるケースも多く、権限が曖昧なままだと、事業拡大後に本社との間で摩擦が生じる可能性があります。

・最初の採用を単なる実務上のポジションとして捉える
最初に採用した人材がその会社でどのような経験をするかは、その後の候補者が会社に抱く印象にも影響します。また、その評判は日本の業界内や人材ネットワークを通じて広がる可能性があります。

 

採用を始める前に確認しておきたいチェックリスト

・正式な雇用主が誰になるのかを確認する(日本法人、または法人設立手続き中の場合はEOR) 

・本国の契約書テンプレートを一部修正するのではなく、日本の雇用法に詳しい専門家に雇用契約書を確認してもらう 

・賞与や通勤手当を含め、そのポジションにおける日本市場の最新の報酬水準を確認する 

・ 業務範囲、レポートライン、意思決定の権限を明確にし、書面にしておく 

・最初の現地採用では、一定の経験や幅広い対応力を求めることが多い点を踏まえ、現実的な採用スケジュールを立てる

 

日本での初めての採用をReeracoen Japanがサポート

Reeracoen Japanでは、日本市場への参入を検討する外資系企業に対し、最初に採用するポジションの設計から、採用プロセス全体まで幅広くサポートしています。Reeracoenの専門コンサルタントとアジア各国のネットワークを活かし、それぞれの企業の採用ニーズに合わせた支援を行います。

日本で初めての採用をご検討中の企業様は、ぜひReeracoen Japanのコンサルタントまでご相談ください。

採用のご相談はこちら 

 

よくある質問

日本法人を設立する前に、日本で人材を採用することはできますか?

まだ法人が雇用主として法的に成立していないため、その法人が直接人材を雇用することはできません。

そのため、多くの企業では、法人設立までの期間にEmployer of Record(EOR)サービスを利用して人材を雇用し、法人設立後に新しい法人へ雇用を移管します。

EORを利用するかどうかは、追加で発生するコストや手続きに加え、法人設立までにかかる期間や、候補者の採用をどの程度急ぐ必要があるかを踏まえて判断する必要があります。具体的な方法については、法務の専門家に確認することが重要です。

 

日本では、試用期間中であれば簡単に雇用を終了できますか?

一般的には、簡単に終了できるわけではありません。日本では、試用期間中であっても、雇用を終了するには通常、正当な理由が必要です。

試用期間を「まずは雇って様子を見るための期間」と捉えることは、日本で初めて採用を行う外資系企業が陥りやすい誤解であり、結果として大きなコストにつながる可能性があります。

 

基本給以外に、どのような報酬項目を予算に含めるべきですか?

法定の社会保険料、一般的に期待される賞与(法的に義務付けられていない場合でも、多くの場合年2回)、そして多くの業界で一般的かつ期待される福利厚生である通勤手当を考慮する必要があります。

基本給だけを見ると競争力があるように見えるオファーでも、これらを考慮すると競争力が低くなる場合があります。

 

日本で最初の人材を採用するには、通常どのくらいの期間がかかりますか?

多くの多国籍企業が当初想定するよりも長くかかることがあります。特に、最初の採用者には、現地で会社を代表できるような幅広い対応力を持つ人材が求められることが多く、このような人材は、より限定された専門職よりも採用が難しいためです。そのため、採用スケジュールにはあらかじめ十分な余裕を持たせ、判断を急がないようにすることが重要です。

 

本国で使用している雇用契約書のテンプレートを、そのまま日本でも使えますか?

これは、外資系企業が日本で初めて人材を採用する際によくある間違いの一つです。日本の雇用法は他国と大きく異なり、特に解雇や試用期間に関するルールには注意が必要です。

他国向けに作られたテンプレートを一部修正して使用するのではなく、日本の雇用法に詳しい専門家に契約書を確認してもらい、可能であれば最初から日本向けに作成することが望ましいでしょう。


 

最初に採用する人材の雇用条件を適切に設定できなかった場合、どのような問題がありますか?

日本では、雇用条件を後から見直したり問題を解決したりすることが、他国と比べて難しく、より大きなコストがかかる場合があります。

例えば、本国と同じ雇用ルールが適用されると考えて解雇を進めた場合、法的なリスクが生じ、当初から日本の制度に合わせて契約書を作成しておく場合よりも、解決に大きなコストがかかる可能性があります。

なお、これは一般的な情報であり、個別のケースについては、日本の雇用法に詳しい専門家に確認することが重要です。




 

著者について

Valerie Ong(ヴァレリー・オン) / Reeracoen Group Regional Head of Marketing

Valerieは、Reeracoenのアジア地域におけるコンテンツおよび市場調査・分析を統括しています。専門のリクルーティングコンサルタントと連携しながら、採用データや給与水準、労働市場の動向を、企業や求職者にとって実践的で役立つ情報として発信しています。

また、Salary Guide、Hiring Pulse、Hiring Manager Surveyなど、Reeracoen独自の調査データも活用しています。

 

参考情報

本記事は、日本へ進出する外資系企業の採用を支援してきたReeracoenの経験と、日本の雇用慣行に関する一般公開情報をもとに作成しています。最新かつ正確な情報については、以下の情報源をご確認ください。

  • 厚生労働省(MHLW):雇用・労働基準、社会保険に関する情報 

  • 出入国在留管理庁:ビザおよび就労に関する要件 

  • 雇用契約、解雇、コンプライアンスなど、自社の状況に応じた判断については、日本の雇用法に詳しい専門家


 

免責事項

本記事は、公開日時点におけるReeracoenの採用支援経験および一般公開情報に基づき、一般的な情報を提供するものです。法務、入管、税務に関する助言を目的としたものではありません。

また、雇用法、ビザ要件、コンプライアンス上の義務は変更される可能性があります。日本で採用を予定している企業は、自社の状況に応じた雇用上の判断を行う前に、日本の法律や入管制度に詳しい専門家へご相談ください。