市場参入後の次の課題:台湾に進出済みの日系企業は採用・人材定着戦略をどう見直しているか

October 26, 2026 09:00

2025年、台湾の日系企業による採用の54.1%は退職者の補充で、事業拡大を目的とした採用は24%でした。長年、台湾事業を安定した市場として捉えてきた日本本社にとって、この数字は見過ごせません。

台湾事業は本当に安定しているのか。それとも、人材面の課題がまだ大きく表面化していないだけなのでしょうか。

ベトナムのような新規進出市場では、「必要な人材を採用できるか」が大きな課題になります。

一方、台湾で5年、10年、15年と事業を続けている企業では、「難しい時期はすでに越えた」と考えがちです。

ところが、Reeracoen Taiwanの「2026 Employer Outlook Report」では、台湾の日系企業183社の経営層を対象にした調査から、その見方を改めて考える必要があることが分かります。

本記事では、すでに台湾で事業を展開している企業に向けて、今、人材定着や採用ブランドへの投資を強めるべきなのかを考えます。

データだけで結論を出すことはできませんが、Reeracoenでは、これまで以上に積極的な対応が必要になっていると見ています。

 

主な調査結果

  • 2025年、台湾の日系企業による採用の54.1%は退職者の補充で、事業拡大を目的とした採用は24%でした。Reeracoenでは人材定着への負荷を示す可能性があると捉えていますが、補充採用の割合だけで人材定着の問題が確認できるわけではありません。

  • 23.1%の企業が、台湾の候補者における自社ブランドの認知度の低さを採用上の直接的な障壁として挙げています。日本で高い知名度を持つ企業も例外ではありません。

  • 39.6%の企業が、自社の報酬水準に十分な競争力がないと回答しています。ただし、レポートでは主な背景を単純な低賃金ではなく、構造的な人材不足と分析しています。

  • 57.4%の企業が、採用上の最大の課題として労働市場全体の人材不足を挙げており、個別企業に起因する要因を大きく上回っています。

(出典:Reeracoen Taiwan Employer Outlook Report 2026 第15版、日系企業183社、調査期間:2026年1月30日~2月13日)

 

今、台湾で注目すべきは「採用」より「人材定着」

54.1%と24%という数字の差は、成熟市場に対する本社の見方を見直すきっかけになります。

台湾拠点の採用が主に事業拡大によるものだと考えているのであれば、実際のデータとは逆です。現在、現地チームの採用活動の多くは、新しいポジションを増やすためではなく、退職によって空いたポジションを埋めるために行われています。

2026年に向けては、事業拡大を目的とした採用が32.8%まで増える見込みですが、補充採用も41%と依然として上回っています。

Reeracoenでは、今後も当面は人材定着が重要なテーマであり続ける可能性が高いと捉えています。

ただし、これは補充採用の数字だけから直接確認できる事実ではなく、Reeracoenによる解釈です。

本社にとっては、台湾でなぜ採用が難しくなっているのかを、改めて考える必要があります。

「なぜ候補者が見つからないのか」だけでなく、「なぜ同じポジションを何度も補充しなければならないのか」と考えることも重要です。

この2つは別の課題であり、必要な対策も異なります。

前者だけに目を向けると、本来は人材定着にも原因がある可能性があるのに、採用チャネルや母集団形成への投資だけを増やしてしまうおそれがあります。採用費を増やすだけでは解決しにくい課題かもしれません。

 

日本での知名度だけでは、台湾での採用力につながらない

本レポートが明確に示しているのは、日本では高い知名度や評価を得ている日系企業でも、そのブランド力が台湾の候補者市場にそのまま通用するとは限らないという点です。

調査対象企業の23.1%が、台湾の候補者における自社の認知度の低さを採用上の直接的な障壁として挙げています。また、28.4%は業界そのものの認知度の低さを課題としています。

日本でよく知られ、評価されている企業であっても、実際に人材獲得競争が行われている台湾市場で同じように認知されているとは限りません。

本社が「日本でのブランド力は海外でも自然に伝わる」と考えていると、現地候補者からほとんど知られていない現実とのギャップに直面することになります。

報酬も要因の一つですが、多くの企業が考えるほど決定的な要因ではありません。39.6%の企業が、自社の報酬水準に十分な競争力がないと回答しています。

ただし、レポートでは、この背景にあるのは単純な低賃金ではなく、台湾における構造的な人材不足だと分析しています。採用の難しさに対して、ブランド認知や採用精度を見直さず、予算だけを引き上げても、追加投資に見合う効果は得にくい可能性があります。

 

半導体業界への人材流出は、非テック企業にも影響する

台湾の労働市場には、台湾特有の構造があります。

半導体やAIインフラへの投資が集中することで、エンジニア、技術職、デジタル人材がテック業界だけでなく、他の幅広い業界からも引き寄せられています。

製造、物流、建設、サービス業などでは、自社の面接日程を設定する前に、有力候補者が半導体関連企業に採用されてしまうケースも報告されています。

複数の回答者が、特に新竹サイエンスパークを現地人材市場に大きな影響を与える存在として挙げています。

57.4%の企業が、採用難の最大の原因として労働市場全体の人材不足を挙げており、個別企業に起因する要因を大きく上回っています。

これは、2026年の台湾市場に構造的な人材不足があることを示しています。

個々の企業が採用ブランドを改善するだけで簡単に解消できる問題ではありません。

本社としては、一時的な状況として改善を待つのではなく、台湾で事業を行ううえで継続的に対応が必要なコスト要因として計画に織り込む必要があります。

 

報酬データから実際に分かること

台湾の日系企業における年間昇給率は2.1%~4.0%に集中し、全体平均は約3%です。また、86.9%の企業が年1回の給与見直しを行っています。年末賞与は2か月分が中央値で、35%の企業がこの水準を採用しており、市場で最も一般的な基準となっています。

日本本社が台湾の報酬水準を比較する際に、レポートが示している重要な点があります。

この水準は、競争優位を生み出すためのものではなく、市場で後れを取らないための基準です。

この水準を満たすことで採用上の障壁を一つ取り除くことはできますが、それ自体が採用上の強みになるわけではありません。

業界別のデータを見ると、一部の業界ではそのリスクがより明確に表れています。

 

業界別の報酬水準

業界

平均昇給率

賞与中央値

ポイント

半導体・電子

3.06%

2.2か月

AI人材をめぐる競争が激化

運輸・物流

3.70%

2.0か月

現場人材の深刻な不足が昇給率を押し上げ

建設・エンジニアリング

3.46%

1.9か月

台湾国内のインフラ需要が押し上げ要因

金融・保険

2.50%

4.0か月

「賞与高め・昇給率低め」の典型的な構造

一般製造業

3.04%

2.0か月

デジタル変革への投資が安定的に継続

卸売・小売

3.27%

1.8か月

台湾の消費者マインドとの連動が強い

飲食・ホテル・観光

2.44%

0.9か月

全体として市場平均を大きく下回る

IT・情報サービス

1.75%

0.5か月

警告:市場最低水準で、人材流出リスクが高い

 

台湾拠点がIT・情報サービス業に属する場合、この数字は本社として特に注意すべきです。

平均昇給率は1.75%、賞与は0.5か月分で、いずれも調査対象業界の中で最低水準です。

デジタル人材の獲得競争がすでに激しい市場で、この業界の報酬水準は市場全体を大きく下回っています。

レポートでは、この差を同業界における社内人材の流出加速につながり得る明確な警告サインとしています。

前年の予算承認サイクルをそのまま前提にしていると、市場水準との乖離がどこまで広がっているかを本社が把握できない可能性があります。

 

日本本社が今、取り組むべきこと

市場水準の報酬を「競争力」と考えない

昇給率2.1%~4.0%、賞与約2か月分という水準は、採用時に強みとして打ち出すものではなく、市場で後れを取らないために必要な最低限の目安として捉えるべきです。現地チームが人材定着を改善する主な手段として報酬を挙げている場合、データ上より重要性が高いと考えられる「企業ブランドの認知」と「採用精度」への投資が十分でない可能性があります。

 

現地向けの採用ブランドに、専用予算を確保する

台湾の候補者市場に向けて、繁体字中国語による採用ブランド発信に継続的に投資してください。日本での高い知名度が台湾でも自然に伝わるとは限りません。また、これは現地チームだけで解決できる課題でもありません。

個々の求人広告だけではなく、継続的なマーケティング投資が必要になるため、本社による明確な予算配分が求められます。

 

応募数を増やすより、採用の精度を高める

48.1%の企業が、採用上の中心的な課題として「応募者数の不足」ではなく「候補者とポジションのミスマッチ」を挙げています。台湾の採用レポートで、面接段階における候補者とポジションの適合度ではなく、応募件数などの量だけを追っているのであれば、見るべき指標がずれている可能性があります。実際の課題が求人内容の明確さや選考の精度にあるにもかかわらず、採用広告費を増やしてしまうことにもつながります。

 

半導体業界への人材流出を、技術職だけの問題ではなく全社的なリスクとして捉える

台湾拠点の各ポジションについて、正式な面接プロセスが始まる前に半導体企業やAI関連企業へ人材を奪われるリスクが高い職種を特定してください。

退職者が出てから対応を始めるのではなく、そうした職種を優先して人材定着について検討する必要があります。

 

日本本社向けチェックリスト

1. 台湾拠点における2025年の採用内訳を確認し、補充採用と事業拡大による採用の比率を把握する。

本調査の54%対24%に近い場合、Reeracoenでは、採用活動だけでなく人材定着にも優先的に目を向ける必要があると捉えています。

2. 面接前の段階で候補者が自社ブランドを認知しているか、それとも面接を通じて初めて知るのかを現地チームに確認する。

後者であれば、現地チームの実行力ではなく、ブランド発信に必要な予算の不足が課題である可能性があります。

3. 台湾拠点の現在の報酬レンジを、上記の業界別データと比較する。

自社の業界が示されている水準を下回る場合、通常の予算項目として扱うのではなく、現在進行中の人材流出リスクとして捉える。

4. 台湾の採用レポートで、応募数だけでなく候補者とポジションの適合度まで追跡しているか確認する。

応募数だけを見ている場合は、追加の採用マーケティング予算を承認する前に、指標の見直しを求める。

 

Reeracoen Japanと台湾の人材戦略を見直す

Reeracoen Japanは、アジア全域の採用・人材定着戦略を見直す際の相談窓口です。台湾市場で15年にわたり事業を展開してきたReeracoenの専門コンサルタントの知見を活かし、日本本社が現在の戦略を今年の調査結果と照らして見直せるよう支援します。具体的な状況について、ぜひ当社コンサルタントにご相談ください。

企業様向けお問い合わせ

 

よくある質問

台湾での採用難は、候補者を見つけることと、人材を定着させることのどちらが主な課題ですか?

Reeracoen Taiwanの「2026 Employer Outlook Report」によると、2025年の採用の54.1%が退職者の補充で、事業拡大を目的とした採用は24%でした。Reeracoenでは、すでに台湾で事業を展開している企業にとって、人材定着がより大きな課題となっている可能性を示す数字だと捉えています。ただし、補充採用の割合だけで人材定着の問題を直接証明できるわけではありません。本社が詳しく確認すべき一つのデータとして捉える必要があります。

 

日本で知名度の高い企業でも、なぜ台湾では候補者の獲得に苦戦するのでしょうか?

調査対象企業の23.1%が、台湾の候補者における自社ブランドの認知度の低さを課題として挙げています。日本で広く知られている企業でも、日本国内での評判が台湾の候補者市場での認知にそのままつながるとは限りません。このギャップを埋めるには、時間が解決するのを待つのではなく、現地言語による採用ブランドへの継続的な投資が必要です。

 

台湾での採用難を改善するには、給与を上げるのが最も効果的ですか?

報酬は重要ですが、レポートのデータからは、それだけが主要な解決策とは言えません。現在の市場水準(年間昇給率2.1%~4.0%、賞与約2か月分)を満たすことは、採用上の障壁を一つ取り除くことにはなりますが、それ自体が競争優位を生むわけではありません。Reeracoen Taiwanの分析では、企業ブランドの認知度や採用精度も同程度、あるいはそれ以上に重要だとしています。

 

台湾の半導体業界は、テック業界以外の採用にもどのような影響を与えていますか?

半導体・AI関連への投資によって、エンジニア、技術職、デジタル人材が製造、物流、建設、サービス業などからも流出しています。他社の面接が始まる前に、候補者が半導体関連企業に移るケースもあります。調査対象企業の57.4%が、採用上の最大の課題として労働市場全体の人材不足を挙げており、こうした影響が業界を越えて広がっていることがうかがえます。

 

台湾で、報酬水準の低さによる人材流出リスクが最も高い業界はどこですか?

2026年のレポートでは、IT・情報サービス業の平均昇給率は1.75%、賞与は0.5か月分で、いずれも調査対象業界の中で最も低い水準でした。台湾ではデジタル人材の採用競争がすでに激しく、レポートでは、この低い報酬水準を同業界の人材流出リスクを示す警告サインとしています。

 

著者について

Valerie Ong(ヴァレリー・オン) / Reeracoen Group Regional Head of Marketing

Valerieは、Reeracoen Groupのアジア全域におけるコンテンツ制作と市場分析を統括しています。Reeracoenの各分野に精通した採用コンサルタントと緊密に連携しながら、採用データ、給与水準、労働市場の動向を、企業やプロフェッショナルが活用できる実践的な情報として発信しています。その活動には、「Salary Guide」「Hiring Pulse」「Hiring Manager Survey」をはじめとする、Reeracoen独自の調査データが活用されています。

 

参考資料

Reeracoen Taiwan. (2026). Taiwan Employer Outlook Report 2026 (15th Edition, n=183 Japanese-affiliated companies, surveyed 30 Jan-13 Feb 2026).

 

免責事項

本記事は、公開時点で信頼できると判断した公開情報およびReeracoen独自の調査に基づき、Reeracoenが作成したものです。一般的な情報提供および教育を目的としており、専門的な人事、法務、財務に関する助言を提供するものではありません。出典レポートにも記載されているとおり、調査結果は企業側の自己申告に基づくものであり、個別企業の状況を正確かつ完全に示すものではなく、市場全体の方向性を把握するための参考情報として捉える必要があります。事業上の意思決定を行う際は、各社の状況に応じた専門家の助言もあわせてご検討ください。市場環境は変化する可能性があり、本記事の情報は公開日時点で入手可能なデータに基づいています。