日本で初めて採用する社員のオンボーディング: 最初の90日で多国籍企業が押さえるべきポイント

October 22, 2026 09:00

ある欧州系テクノロジー企業が、日本で初めての採用を終えたとします。スムーズに進んだ選考を経て、優秀な候補者が入社を承諾しました。人事は最も難しい部分を終えたと考え、まだ進行中の法人設立手続きに再び注意を向けます。

しかし6週間後、新入社員は週次のチェックインでほとんど発言しなくなり、自分の判断を実際に誰が承認するのかも分からないまま、ひそかに他社の求人を探し始めています。大きな問題が起きたわけではありません。誰かが明らかなミスをしたわけでもありません。会社が、オファーの承諾をゴールだと捉えてしまっただけです。

日本で最初の1人を採用する企業にとっては、むしろそこがスタートに近いのです。

 

日本で初めて人材を採用する際の当社ガイドでは、オファーへの署名前に検討すべき事項として、Employer of Record(EOR)の仕組み、雇用契約の慣行、報酬水準などを取り上げています。

本記事ではその続きとして、最初の採用者が現地組織の安定した基盤となるのか、それとも早期退職による大きなコストにつながるのかを左右する「最初の90日」に焦点を当てます。

これは、10人目の採用よりも最初の1人を採用するときの方が重要です。質問を受け止めたり、社内で期待される行動を示したり、日常的な背景情報を共有したりする既存の現地チームがいないからです。

新入社員は、会社が意図的に用意した仕組みをもとに、仕事の進め方や社内での関係をほぼ一から築かなければなりません。そのため、オンボーディングを適切に設計する責任は、本社と、その社員を直接マネジメントする責任者にあります。

 

日本で最初の1人を採用する企業にとって、最初の90日が特に重要な理由

 

新しい市場で最初に採用された社員は、通常、すでに働いている同僚を見ながら、明文化されていない期待や仕事の進め方を学びます。しかし、企業にとって日本で最初の社員には、そのような環境がありません。

Reeracoenのオンボーディング支援経験では、日本の職場では、他の市場の初期段階の採用で見られる「走りながら考える」進め方よりも、役割、担当範囲、報告ラインを最初から明確にすることが重視される傾向があります。これは当社が観察している一般的な傾向であり、すべての個人や企業に当てはまるルールではありません。

またReeracoenの経験では、入社直後に役割や権限が曖昧であっても、社員本人から必ずしも直接その不安が伝えられるとは限りません。そのため、「何も言ってこないから問題ない」と考えるのではなく、計画的なチェックインを設けることが重要です。

 

多国籍企業が陥りやすいオンボーディングの失敗

  • 「本社では皆こうしているから」と、新入社員も会社の慣行をすでに理解していると思い込むこと。現地で最初に採用された社員には、本社で働いた経験から得られる前提知識がありません。会社側も「説明を省こう」と明確に決めたわけではないため、この思い込みには気づきにくいものです。

  • 日本特有の事務手続きを軽く見てしまうこと。社会保険(shakai hoken)への加入、銀行口座の開設や印鑑(hanko、必要な場合)の準備、その他の登録手続きなどを、日本で最初に採用された社員がほぼ一人で進めなければならないケースがあります。

  • 新入社員を業務上孤立させてしまうこと。現地で唯一の社員には、仕事の進め方や慣行を気軽に確認できる同僚がいません。そのため、既存チームに10人目として加わる社員以上に、会社側が意識して頻繁にチェックインすることが重要です。

  • 報告ラインが不明確なこと。最初の採用者は、日本特有の事情に詳しくない海外のマネージャーへ直接報告するケースも多く、意思決定の権限がどこにあるのか、双方が分からない状態になりやすくなります。

 

最初の90日を支える実践的なオンボーディング・フレームワーク

 

1週目:事務手続きとコンプライアンスの基盤づくり

  • 社会保険(shakai hoken)の加入手続きが進んでいることを確認し、会社側でどの手続きが行われているのかを本人にも説明します。

  • 雇用契約書と職務範囲を文書で提示します。当社の初回採用ガイドで説明しているとおり、日本の雇用法に詳しい専門家の確認を受け、本社のテンプレートを非公式に流用・調整するだけで済ませないようにします。

  • 勤務環境、業務ツール、各種アクセス権など、実務上必要な基本環境を整えます。本社と同じ環境がそのまま使えるとは考えないようにします。

 

2〜4週目:役割の明確化と組織への定着

  • 社内では明らかだと思える内容でも、報告ラインと意思決定権限を文書で明確にします。既存の現地チームに加わる経験者以上に、最初の採用者には明確な確認が重要です。

  • 問題が起きたときだけ連絡するのではなく、本社との定期的なコミュニケーションの機会を設けます。

  • 会社が日本で利用している専門家や外部パートナー(会計士、法律専門家、人材紹介会社など)がいれば、新入社員にも紹介します。現地事情を知る唯一の窓口を本人だけにしないことが重要です。

  • 直属の上司だけでなく、経営陣とも定期的に気軽に話せる機会を設けます。規程や資料だけではなく、実際のやり取りを通じて会社の文化を理解できるようにします。

  • 正式な報告ライン以外にも、地域チームや本社の同僚と接点をつくります。たとえば地域チームの会議に招いたり、他国の同僚を紹介したりすることで、現地では1人であっても、より大きなチームの一員だと感じられるようにします。

 

2〜3か月目:状況の確認と早期の定着サイン

  • 単に「どうですか?」と聞くだけではなく、役割が明確か、業務量は適切か、本社とのコミュニケーションに問題はないか、そして会社から情報を受け取るだけでなく、組織の一員だと実感できているかを具体的に確認するチェックインを設けます。

  • 試用期間について話し合う必要が生じた場合も、他の雇用上の判断と同様に、慎重に対応し、記録を残します。当社の初回採用ガイドでも説明しているとおり、日本の雇用法では、試用期間が簡単に雇用を終了できる低リスクな「お試し期間」として扱われるわけではありません。

  • コミュニケーションが減った場合は、早めに確認すべきサインの一つとして捉えます。Reeracoenのオンボーディング支援経験では、最初の採用者があまり話さなくなったからといって、必ずしも問題を抱えているとは限りません。ただ、「もう慣れたのだろう」と判断して放置せず、状況を確認する価値のある変化です。

 

90日後、オンボーディングがうまくいっている状態とは

冒頭のケースを、別の進め方をした場合と比べてみましょう。

同じ社員でも、1週目の段階で報告ラインを文書で明確にし、本社側の担当者を決めて毎月の面談を設定し、さらに60日目のフォロー面談で、単に「どうですか?」と聞くのではなく、役割や権限が明確になっているかを具体的に確認していたとします。

 

そうすれば、社員が6週間にわたって何も言わずに距離を置くのではなく、60日目の時点で、意思決定権限について感じていた懸念を伝えられたかもしれません。会社はその声を受けて報告体制を見直します。

その結果、社員は会社にとどまり、2人目、3人目の現地採用者にとっても、社内での働き方を知るうえで頼れる存在になっていきます。

2つの結果を分けたのは、採用した人材の質ではありません。最初の90日を、きちんと設計して運用したか、それとも後回しにしたかの違いです。

 

最初の90日チェックリスト

  • 社会保険の加入手続きが進んでおり、社員本人も今後の流れを理解している

  • 雇用契約書と職務範囲が文書化され、日本の雇用法に詳しい専門家の確認を受けている

  • 日常的な質問に対応する担当者が決まっている(海外の上司だけに任せない)

  • 最初の90日間の定期面談スケジュールがあらかじめ設定されている

  • 会社が利用している日本国内の専門家や外部パートナーを紹介している

入社初日までに、上記すべてを確認してください。

 

Reeracoen Japanのオンボーディング支援

Reeracoen Japanでは、採用決定後も企業のオンボーディングを支援しています。日本で最初に採用した社員が長期的に活躍できるよう、専門コンサルタントとアジア各地のネットワークを活かし、入社後の受け入れや職場への定着をサポートします。具体的な状況について、ぜひ当社コンサルタントにご相談ください。

企業様向けお問い合わせはこちら

 

よくある質問

日本で最初の社員を受け入れる際、見落とされやすい事務手続きは何ですか?

社会保険(shakai hoken)への加入や関連する登録手続きは、必要な期間や手続きの複雑さが過小評価されやすい項目です。特に、日本に既存の人事体制がない企業が初めて日本で社員を採用する場合は注意が必要です。

 

日本で最初に採用する社員のオンボーディングは、すでに現地チームがある場合と何が違いますか?

最初の採用者には、仕事の進め方や慣行を日常的に学べる現地の同僚がいません。そのため、既存チームに加わる社員の場合よりも、役割の範囲、報告ライン、期待されることを会社側が意識して明確に伝える必要があります。

 

日本で最初に採用する社員の試用期間は、リスクの低い「お試し期間」と考えてよいですか?

いいえ。当社の日本での初回採用ガイドでも説明しているとおり、日本の雇用法では、試用期間を簡単に雇用を終了できる低リスクな期間として扱っているわけではありません。試用期間中に雇用を終了する場合も、一般的に、妥当な理由とそれを裏付ける記録が必要です。

 

最初の90日間は、どのくらいの頻度でチェックインすべきですか?

必要だと感じる以上に、頻繁かつ計画的に行うことをおすすめします。仕事の進め方や背景を気軽に確認できる現地の同僚がいないため、役割の明確さ、業務量、本社とのコミュニケーションなどを具体的に確認する定期的なチェックインが有効です。

 

日本で最初に採用した社員がうまく適応できていないとき、早期に見られるサインはありますか?

Reeracoenのオンボーディング支援経験では、コミュニケーションが減ったり、以前より明らかに発言が少なくなったりした場合は、状況を確認する一つのサインと考えられます。ただし、それだけで仕事への関与が低下していると判断できるわけではありません。

定期的な面談は、問題が離職につながる前に、本人がどのような状況にあるのかを早めに把握するためにも重要です。

 

著者について

Valerie Ong(ヴァレリー・オン) / Reeracoen Group Regional Head of Marketing

Valerieは、Reeracoen Groupのアジア全域におけるコンテンツ制作と市場分析を統括しています。Reeracoenの各分野に精通した採用コンサルタントと緊密に連携しながら、採用データ、給与水準、労働市場の動向を、企業やビジネスパーソンが活用できる実践的な情報として発信しています。その活動には、「Salary Guide」「Hiring Pulse」「Hiring Manager Survey」をはじめとするReeracoen独自の調査データが活用されています。

 

参考資料

本記事は、日本で最初の社員を受け入れる外国企業を支援してきたReeracoenの採用支援経験と、日本の雇用慣行に関する一般公開情報をもとに作成しています。最新かつ正式な情報については、以下をご確認ください。

  • 厚生労働省(MHLW)— 労働基準および社会保険に関する案内

  • 日本の労働法に詳しい有資格専門家 — 各社の雇用契約、試用期間、コンプライアンスに関する個別の判断について

 

免責事項

本記事は、公開日時点で入手可能な一般公開情報およびReeracoenの採用支援経験に基づく一般的な情報提供を目的としています。法律、在留資格、税務に関する助言を提供するものではなく、雇用法やコンプライアンス上の義務は変更される可能性があります。日本で社員を受け入れる企業は、各社の状況に応じた雇用上の判断を行う前に、日本の労働法に詳しい有資格専門家から独立した助言を受けることを推奨します。