アジアで国際的なキャリアを築くために必要なこと

海外でのキャリアを考えたとき、「自分の英語力は通用するのだろうか?」と不安に感じる方は多いのではないでしょうか。
英語力は、海外で働くうえで大切な要素の一つです。ただ、実際の採用では、英語力だけで評価が決まるわけではありません。
Reeracoenは、シンガポールの採用担当者375名を対象に、採用を決定する際に重視するポイントについて調査を実施しました。回答者の多くは、地域・国際的なポジションにおいて、日本人やバイリンガル人材の採用に日常的に携わっています。調査の結果、英語力そのものは、候補者を見極めるうえで大きな差別化要因にはなっていませんでした。
企業がより重視していたのは、求職者がこれまで身につけてきた経験やスキルを、実際の仕事でどのように生かせるかという点でした。
そこで本記事では、「英語力は十分か」という問いから一歩進んで、海外でのキャリアについて、より実践的な視点から考えていきます。
海外ポジションへの応募、英語を使う仕事への挑戦、あるいは海外勤務後のキャリア形成など、次のステップに進むための準備はできているでしょうか。
もし足りないものがあるとすれば、どのようなスキルや経験を身につけることで、そのギャップを埋められるのでしょうか。
本記事では、こうした問いを軸に、海外でキャリアを築くために本当に必要な要素を見ていきます。
企業が見ている「経歴と実務能力のギャップ」
企業が採用上の課題として最も多く挙げたのは、「候補者と給与条件のミスマッチ(80.3%)」です。次いで多かったのが、「スキルのミスマッチ(65.1%)」でした。ここでいう「スキルのミスマッチ」とは、単に語学力が足りないという意味ではありません。企業が見ているのは、職務経歴書に書かれたスキルや経験が、実際の業務で求められるレベルに達しているかどうかです。
たとえば、日本と東南アジアに拠点をもつ企業で、複数国にまたがる業務を調整するポジションに、2人の候補者が応募したケースを考えてみましょう。
どちらの職務経歴書にも、「英語が流暢」「高いコミュニケーション能力」といった強みが書かれています。
1人目の記載はそれだけです。
一方、もう1人の職務経歴書には、次のような具体的な実績が記載されています。
3カ国の現地法人で共通の報告プロセスを導入するプロジェクトを主導。プロジェクト管理ツールを活用し、恒常的に発生していた報告の遅れを数日短縮した。
後者が選ばれる理由は、単に英語力が高いからではありません。
自身のスキルを実務でどのように生かし、どのような成果を出したのかが、具体的に示されているからです。
これは、グローバルキャリアを目指すうえで非常に重要なポイントです。
語学力は分かりやすい強みであるため、つい前面に出してアピールしてしまいがちです。もちろん、企業が英語力を軽視しているわけではありません。
ただし、企業が本当に見ているのは、英語力そのものだけではなく、その英語力を使って実際に仕事を進め、成果につなげられるかどうかです。
採用の場で評価されるのは、単に「英語が得意な人」ではなく、語学力に加えて、企業が求めるスキルや経験を備えている人なのです。
1. 英語力は「武器」ではなく「スタートライン」
TOEICのスコアや実務で使える英語力は、グローバルな仕事において重要なスキルです。
ただし、それは他の候補者と差をつけるための強力な武器というよりも、選考の土俵に上がるための前提条件に近いものです。高いスコアや十分な英語力があれば、書類選考を通過しやすくなることはあります。しかし、それだけで内定まで勝ち取れるとは限りません。これまで「英語力の向上」や「スコアアップ」を最優先にしてきた方は、ここで一度視点を広げてみることが大切です。
英語学習の努力が無駄なのではありません。
英語力に加えて、どのような実務経験や専門性を持ち、それをどう示せるかが重要になるということです。
2. 企業が重視する『デジタル&AIスキル』
企業への調査では、最も価値の高い研修・スキルアップ分野として、「デジタルおよびAI関連スキル(68.6%)」が挙げられています。
これは、ITの専門知識やエンジニアとしての経験が必要という意味ではありません。
一般的な業務ツールやAIツールを実際の仕事で使った経験があり、それをどのように業務に生かしたのかを具体的に説明できることが重要です。
また、資格や講座を修了したという事実だけではなく、「実際の仕事でどのように活用したか」まで示せることが評価につながります。
たとえば、以下のような経験です。
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AIツールを使って特定の業務を効率化した
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報告書の初稿作成やリサーチ内容の整理・要約にAIを活用した
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繰り返し発生する定型業務を自動化した
このような事例を説明できれば、採用担当者は、その候補者が実際の業務でAIをどのように活用できるのかを具体的にイメージできます。
一方で、履歴書に単に「AIスキルあり」「AIに精通」と記載するだけで具体例がなければ、面接で詳しく聞かれた際に、十分に説明できない可能性があります。
3. プロジェクトマネジメントと国境を越えた業務遂行力
「プロジェクトマネジメント」も、重要なスキルとして全体の2位(52.4%)と高い評価を得ています。これは、グローバルな仕事の特徴をよく表している結果です。国際的なポジションでは、正式に「プロジェクトマネージャー」という職種でなくても、時差や部門、言語の壁を越えて、関係者と調整しながら仕事を進めることが求められます。そのため、プロジェクトマネジメントの経験は、職種を問わず重要な強みになります。
正式なプロジェクトでなくても、部門横断の取り組みや海外拠点とのやり取りを主導した経験は、企業が求めている能力を具体的に示す材料になります。しかし、こうした経験があっても、それを国際的な仕事に生かせる強みとして十分に言語化できていない候補者もいます。
実際には経験を持っていても、それが国際的な仕事に生かせる強みだと本人が認識していないケースがあるからです。
たとえば、次のような日常業務も、グローバルな仕事につながる実績として評価される可能性があります。
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海外サプライヤーとの交渉や調整
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各国の市場や読者に合わせたレポートフォーマットの調整
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時差のある海外オフィスの同僚とのスムーズな業務引き継ぎ
“International”や“Global”といった肩書きがなくても、こうした経験は国際的な業務経験として十分にアピールできます。
4. 異文化コミュニケーションと適応力:スキルを支える本質的な力
調査では、38.4%の企業が「リーダーシップとコミュニケーション」を重要な研修分野として挙げています。
今回のHiring Manager Surveyでは、「異文化への適応力」そのものについて直接質問しているわけではありませんが、この結果は、それに近い能力の重要性を示していると考えられます。また、この結果は、Reeracoenのコンサルタントが各地域のマーケットで継続的に感じていることとも一致しています。
国際的な環境で活躍する日本人ビジネスパーソンは、必ずしも語学スコアが最も高い人とは限りません。
むしろ、海外のオフィスでも、周囲の状況や相手の反応を読み取り、相手に応じてコミュニケーションの取り方を調整できる人です。
また、日本のビジネス慣習がそのまま通用するとは考えず、現地の文化や働き方に柔軟に対応できる人です。こうした能力は、記事を読んだだけで身につくものではありません。現場での実務やメンタリング、異なる市場の同僚と働く経験などを通じて、少しずつ養われていくものです。
履歴書上では表れにくい能力ですが、こうした経験を意識的に積んできた候補者にとっては、面接の場で大きな強みとなります。
主張よりも実績:企業は応募者をどう評価しているのか
採用担当者の76.6%は、資格取得、研修受講の記録、ポートフォリオ(実績をまとめた資料)など、スキルアップを裏付ける具体的な実績を、候補者を評価するうえで「重要」または「非常に重要」と回答しています。
また、62.7%が最近取得した資格や研修経験をプラスに評価し、61.2%が関連する実務経験を、55.4%が明確な志望動機やキャリア再構築に向けた計画を重視しています。
これらの数字に共通しているのは、企業が求めているのは自己申告ではなく、スキルや能力を裏付ける具体的な根拠だということです。
「高いコミュニケーション能力」や「グローバルマインド」と書くだけの履歴書よりも、具体的なプロジェクト経験や資格、数値で示せる実績が記載された履歴書の方が、より説得力を持って評価されます。
これは、海外勤務を終えて日本へ帰国する場合や、職歴にブランクがある場合にも同じです。
自身の経験やキャリアの経緯を企業にどう伝えるかを考える際には、単なる自己アピールだけでなく、それを裏付ける具体的な事実を示すことが重要です。
本当に転職の準備はできていますか?
ここまでお伝えしてきた内容は、単に転職への意欲を高めるためのものではありません。
自分がどの程度、次のキャリアに向けた準備ができているのかを客観的に確認するためのものです。
もちろん、ここで挙げた5つの分野をすべて完璧に身につけてからでなければ、応募できないということではありません。
重要なのは、転職の「準備ができているかどうか」は感覚だけで判断するものではなく、具体的な経験や実績をもとに確認できるということです。
自分では「十分に準備できている」と思っていても、企業に示せる具体的な経験がまだ少ない場合があります。
反対に、すでに複数の強みを持っているにもかかわらず、それに気づかず、「まだ準備不足だ」と考えているケースもあります。
応募を始める前に、ぜひ一度試してほしいことがあります。
本記事で挙げた5つの分野それぞれについて、面接で説明できる具体的な経験やエピソードを1つずつ書き出してみてください。
そのうち3つ以上について具体例を挙げられるのであれば、自分で思っている以上に、すでに準備が整っている可能性があります。
一方、多くの項目について具体例が思い浮かばなかったとしても、国際的なキャリアを諦める必要はありません。
むしろ、これから身につけるべきスキルや経験が明確になったということです。
「まだ準備ができていない」と漠然と感じ続けるより、次に何をすべきかが明確になることの方が重要です。
国際的なキャリアプランを築くために
最後に、これまでのポイントを整理してみましょう。
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英語力は、国際的な仕事に必要な基礎力の一つとして捉える
ビジネスの場で適切に意思疎通できるレベルに達した後は、英語力そのものをさらに伸ばすことだけに注力するのではなく、そこにどのようなスキルや経験を掛け合わせるかが重要になります。 -
実務で活用できるデジタル・AIリテラシーを身につける
基礎レベルでも構いません。大切なのは、どのように仕事に活用し、どのような成果につなげたのかを具体的に説明できることです。 -
部門や国・地域をまたぐプロジェクト経験を振り返る
正式なプロジェクトメンバーでなくても構いません。自分がどのような役割を担い、周囲とどのように調整し、成果につなげたのかを整理しておきましょう。 -
自己アピールだけでなく、それを裏付ける実績を示す
資格、ポートフォリオ(実績をまとめた資料)、具体的な成果など、企業は「本人の主張」だけではなく、能力を客観的に示せる実績や根拠を重視しています。 -
ブランクや帰国後のキャリアでは、「次に何を目指すか」を明確にする
ブランク期間から復職する場合や、海外勤務を終えて日本で再就職する場合は、過去の経緯を説明するだけでなく、次にどのようなキャリアを目指しているのかを具体的に整理しておきましょう。
海外・グローバルキャリアをお考えの方へ
Reeracoen Japanでは、初めて海外求人に挑戦する方から、長年の海外勤務を経て日本への帰国を考えている方まで、国際的なキャリアを目指す日本人プロフェッショナルを幅広くサポートしています。アジア各国に広がるReeracoenのネットワークを活かし、一人ひとりのキャリアステージや希望に合わせたサポートを提供しています。
グローバル人材・バイリンガル人材の採用をご検討中の企業様へ
日本人・バイリンガル人材の採用や最新の採用動向を踏まえた選考プロセスの見直しをご検討の企業様は、Reeracoen Japanまでお気軽にご相談ください。
よくある質問
TOEICの高得点だけで、国際的なキャリアを築くには十分ですか?
いいえ、それだけでは十分ではありません。高いTOEICスコアや英語力は、国際的なポジションに挑戦するうえで重要な基礎力の一つです。
リーラコーエンの採用担当者調査によると、企業が挙げる採用課題の第2位は語学力ではなく、「スキルの不一致(ミスマッチ)」でした。
つまり、英語力そのものだけでなく、英語力にどのようなスキルや実務経験を組み合わせられるかが重要になります。
国際的なポジションを目指す日本人材にとって、最も重要なスキルは何ですか?
調査対象の採用担当者の間で最も評価が高かった研修分野は、プロジェクトマネジメントやデータ分析を上回り、「デジタルおよびAI関連スキル(68.6%)」でした。
こうしたスキルを実務で活用した経験や、継続的に学ぶ姿勢と組み合わせて示すことが、採用担当者から高く評価されるポイントになります。
国際的なポジションで活躍するためには、ITや技術系のバックグラウンドが必要ですか?
いいえ、必要ありません。
本記事におけるデジタルおよびAIリテラシーとは、一般的な業務ツールやAIツールを理解し、実際の仕事の中で活用できる力を指しています。必ずしも正式な技術資格やIT分野での職務経験を意味するものではありません。
重要なのは、それらのスキルをどのように活用したのかについて、具体的な実務上の事例を説明できることです。
実際に自分が応募する準備ができているか、どのように判断すればよいですか?
本ガイドで扱っている5つの分野(英語力、デジタル・AIスキル、国境を越えたプロジェクト経験、異文化適応力、能力の客観的な証明)のそれぞれについて、具体的な経験や事例を1つずつ説明できるか確認してみてください。
3つ以上について具体的に説明できれば、自分で感じている以上に、すでに準備が整っている可能性があります。
一方、不足している項目がある場合も、それは応募をためらい続ける理由ではなく、今後どのような経験やスキルを身につければよいかを考えるための具体的な行動計画になります。
キャリアのブランク期間や、海外勤務後の日本帰国についてどのように説明すべきですか?
調査に回答した採用担当者は、ブランクの理由だけを説明する候補者よりも、その後のキャリアについて明確な方向性を持っている候補者をより前向きに評価しています。
今後どのような仕事やキャリアを目指しているのかを、短くても具体的に説明できることは、ブランク期間の長さそのもの以上に重要です。
これは、日本国内で英語を使用する職種を目指す日本人材にも当てはまりますか? それとも海外勤務を目指す人だけですか?
どちらにも当てはまります。
企業が選考で重視するデジタルリテラシー、プロジェクトを進める力、客観的に証明できるスキルや実績といった要素は、勤務先が海外であるか、日本国内のグローバル企業で英語を使うポジションであるかにかかわらず重要です。
著者について
Valerie Ong(ヴァレリー・オン)/Reeracoen Group Regional Head of Marketing
アジア全域におけるReeracoenのコンテンツおよびマーケットインサイトを統括。採用コンサルタントと密接に連携し、採用データ、給与ベンチマーク、労働市場の動向を、企業や求職者が実際の意思決定に活用できる情報へと落とし込んでいます。
本分析は、Salary Guide、Hiring Pulse、Hiring Manager Surveyなど、Reeracoen独自の調査に基づいています。
参考文献
Reeracoen Singapore. (2026). Hiring Managers Unfiltered: Singapore Hiring Manager Survey 2025/2026 (n=375, with Rakuten Insight).
免責事項
本記事は、公開情報および公開時点で信頼できると判断したReeracoen独自の調査結果に基づいて作成されています。
本記事は、一般的な情報提供および参考情報の提供を目的とするものであり、個別のキャリア、法律、財務に関する専門的な助言を提供するものではありません。
本記事で引用している「採用担当者調査」は、シンガポールを拠点とする企業を対象としたものです。他の国・地域に結果を当てはめる際には、それぞれの市場環境や採用事情の違いを考慮する必要があります。
キャリアに関する重要な意思決定を行う際は、ご自身の状況に応じて、必要に応じた専門家やキャリアコンサルタントへの相談をご検討ください。