給与が上がらなくても海外転職を選ぶべき?オファー全体をどう評価するか

October 21, 2026 09:00

海外転職を検討している日本人プロフェッショナルの間では、「今より給与が上がらないなら、海外転職はやめた方がいい」と言われることがあります。
一見もっともらしいアドバイスですが、必ずしも正しいとは限りません。お金が重要ではないからではなく、給与額だけを単純に比べると、オファーの実際の価値を見誤ることがあるからです。

 

本記事は、給与は重要ではないと主張するものでも、海外経験のためなら給与が下がっても受け入れるべきだと勧めるものでもありません。ここで紹介するのは、表面的な給与額だけでは見えない要素まで含めて、海外のオファーに実際どれだけの価値があるのかを評価するためのフレームワークです。額面上の給与が低いオファーについても、自動的に断るのでも、安易に正当化するのでもなく、適切に判断することを目的としています。

 

給与額だけを単純に比較すると判断を誤りやすい理由

異なる国の給与を比べる際には、OECDの購買力平価(Purchasing Power Parities)について押さえておきたいポイントがあります。為替レートで単純に換算するだけでは、国ごとの物価水準の違いまでは反映できません。購買力平価は、こうした国ごとの購買力や物価水準の差を踏まえて比較するための指標です。

 

つまり、海外の給与を為替レートで円換算し、現在の日本での給与とそのまま比べるだけでは、オファーの実質的な価値を十分に判断できません。

ただし、購買力平価を見れば、特定の都市で実際にどのくらい生活費がかかるのか、あるいはその給与で十分に生活できるのかまで分かるわけではありません。こうした点は、国全体の統計ではなく、個人の状況によって異なります。

大切なのは、特定の計算方法を一律に当てはめることではなく、額面の給与だけでなく、現地の生活費や購買力も含めて総合的に考えることです。

 

また、為替換算をする前の給与額そのものについても、単純に比較することはできません。OECDでは、各国の平均年間賃金を比較する際、国ごとの購買力の違いを反映するため、購買力を調整した数値を用いています。

 

さらにOECDは、平均年間賃金の指標を、そのまま可処分所得として捉えるべきではないともしています。海外求人を検討する際には、額面の総支給額だけでなく、実際にどの程度が手元に残るのかという手取り額も確認する必要があります。

 

つまり、海外のオファーを評価するときは、「総支給額と手取り額の違い」と「額面の金額と購買力を踏まえた実質的な価値の違い」の両方を見ることが重要です。給与額だけを見ていると、こうした違いを見落としやすくなります。

 

オファー全体を評価する6つのフレームワーク

以下は、海外のオファーを総合的に評価するためにReeracoenが作成した実践的なフレームワークです。OECDの手法ではなく、特定の調査によって有効性が検証されたものでもありません。上記のデータと、海外転職の意思決定を支援してきたReeracoenの採用支援経験をもとに整理したチェックリストです。

 

1. 給与・賞与などの報酬

まずは基本条件を確認します。基本給、保証賞与、変動賞与・業績連動賞与、固定手当などです。多くの人が最初に比較する数字ですが、このフレームワークではあくまで出発点であり、最終的な判断材料ではありません。

 

2. 手取りベースの価値

総支給額ではなく、実際の手取り額を確認します。税率や社会保険などの法定負担は、国によって大きく異なります。

また、日本人が海外に移り、税務上の非居住者となる場合には、税務上の取扱いが変わることがあります。ただし、具体的な取扱いは、個人の状況や、日本と赴任先・移住先の国との間で適用される税法・租税条約によって異なります。

これは一般的な情報であり、個別の税務アドバイスではありません。また、海外で働くすべての人が日本での納税義務を免れるという意味でもありません。手取り額を最終的に判断する前に、税理士などの有資格専門家にご自身の状況をご確認ください。

 

3. 生活コストと実際の生活水準

住居費、交通費、医療費、日々の生活費、為替変動の影響などによって、同じ給与でも実際の生活の余裕は変わります。ここで、OECDの購買力に関する考え方が重要になります。

同じ額面の給与でも、住む都市が違えば実際の生活水準には大きな差が生じる可能性があります。そのため、国全体の一般的な調整数値を当てはめるよりも、現地で実際にかかる費用、特に住居費を確認することが重要です。

 

4. 会社からのサポート

引っ越し支援、ビザ・就労許可の取得支援、保険、渡航直後の一時滞在先、該当する場合の一時帰国費用などは、基本給には表れなくても大きな価値を持つことがあります。会社がどこまで負担し、どこからを自分で負担する必要があるかによって、給与差は大きく縮まることも、反対に広がることもあります。

 

5. キャリア上の価値

実際に担当する業務内容、地域・国際業務への関わり、マネジメントの範囲、英語やその他の言語を実務でどの程度使うのか、そしてどのようなスキルを身につけられるのかを確認します。

同じような職種名で、給与も同程度であっても、実際に地域横断の業務経験を積み、より大きな責任を担えるポジションと、そうした機会がないポジションでは、キャリア上の価値は大きく異なります。

 

6. 次のキャリアでの価値

この経験が、その後のキャリアにどのようにつながるのかを具体的に考えます。将来の海外でのキャリアの選択肢だけでなく、いずれ日本に帰国した場合に、転職市場でどのように評価されるかも含めて考えることが重要です。

具体的な成果や自分の役割を説明できる経験を積めるポジションであれば、将来の転職活動でも、国際経験をより明確にアピールしやすくなります。

 

実際の労働市場データから見る、給与以外の条件とのトレードオフ

 

  • Reeracoen「Vietnam Worker Sentiment Study 2026」では、回答者の23%が、新しい仕事を検討する際に給与が最も重要な要素だと回答しました。

  • 67%が、より良い労働条件のためであれば、より低い給与を受け入れると回答しました。

  • 60%が、より充実したメンタルヘルス・ウェルビーイング支援のためであれば、給与を下げることも検討すると回答しました。

(出典:Reeracoen Vietnam Worker Sentiment Study 2026、n=254)

 

これらはベトナム人就業者を対象とした調査結果であり、日本人候補者を対象としたものではありません。そのため、日本人プロフェッショナルの希望を示すデータとして解釈すべきではありません。Reeracoenには、ここで引用できる日本人候補者の希望に関するデータはありません。このデータが示しているのは、少なくとも実際に測定された1つの労働市場では、給与が必ずしも常に最終的な決定要因ではなく、相当数の就業者が、自分にとって価値のある他の条件と引き換えに金銭的報酬を下げることを受け入れる意思を示しているということです。ここでは、給与以外の条件とのトレードオフが実際の労働市場で仕事選びに影響し得ることを示す具体例として紹介しているのであり、あなた自身が上記6つの要素をどのように重視すべきかを予測するものではありません。

 

ケース例:6つの視点でオファーを評価する

以下の数字は、分かりやすさを優先して設定した仮の数値であり、特定の国の実際の購買力や税務データに基づくものではありません。この例は、フレームワークを使うことで比較の仕方がどのように変わるかを示すものであり、実際のオファー内容を示すものではありません。

 

現在日本で働いている候補者が、為替レートで換算すると額面給与が現在より約10%低い海外ポジションのオファーを受けたとします。金銭的報酬だけを比較すれば、これは給与ダウンに見えます。しかし、フレームワーク全体で見ると、赴任先の都市では同程度の生活水準を維持するための一般的な住居費が東京より大幅に低く、生活コスト面での差が縮小、あるいはなくなる可能性があります。さらに会社が引っ越し費用、ビザ取得、健康保険を負担するため、基本給だけを比較した場合には見えない価値も加わります。また、そのポジションでは現在の仕事にはない地域マネジメントの責任を担い、日常的に英語を実務で使用します。書面上では給与額は下がっています。しかし6つの要素すべてで評価すると、オファー全体が本当に条件ダウンなのかどうかは、低くなった給与額と、キャリア上の価値や生活コスト面での価値を本人がどう比較するかによって決まります。このフレームワークは、答えを決めるためのものではなく、自分で判断するための材料を整理するものです。

 

低い給与が本当に条件ダウンになる場合

このフレームワークは、どんなオファーでも自分を納得させて受け入れるためのものではありません。赴任先の生活費が日本と同程度に高く、会社からの引っ越し・ビザ支援もほとんどなく、業務内容によって責任範囲やスキルが大きく広がるわけでもなく、その経験が次のキャリアにどう役立つのかも明確でないのであれば、低い給与は単純に「給与が下がる」ということかもしれません。6つの要素をすべて評価する目的は、最初から楽観的な結論を決めておくことではなく、率直な答えを出すことです。

 

Reeracoen Japanと海外転職のオファーを評価する

Reeracoen Japanのコンサルタントは、海外でのキャリア機会を検討する日本人プロフェッショナルを支援しています。このフレームワークを使いながら、具体的なオファーについて一緒に整理することも可能です。まずはプロフィールをご登録ください。

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よくあるご質問

海外勤務の求人で給与が下がっても、総合的には条件が良くなることはありますか?

あります。ただし、手取り額、生活コスト、会社からのサポート、キャリア上の価値、次の転職につながる経験といった他の要素が、給与ダウンを十分に補える場合に限ります。

必ずそうなるわけではありません。実際に比較した結果、「結局は単純な給与ダウンだった」と判断するケースもあります。

 

購買力平価を見れば、海外での実際の生活費が正確に分かりますか?

いいえ。OECDの購買力データは、国をまたいで給与を比較する際に、単純な通貨換算だけでは十分ではないことを示すものです。ただし、個人が実際にどの程度の生活費を負担するのか、あるいは特定の給与で十分に生活できるのかまで分かるわけではありません。

そのため、一般的な調整数値を当てはめるよりも、ご自身の状況に合わせて、現地で実際にかかる費用、特に住居費を確認する方が有用です。

 

海外で働けば、日本の税金を支払わなくなるのでしょうか?

必ずしもそうではなく、個人の状況によって異なります。国税庁の一般的な案内によると、税務上の非居住者になると税務上の取扱いが変わる場合がありますが、具体的な結果は個人の状況や適用される税法・租税条約によって異なります。これは一般的な情報であり、個別の税務アドバイスではありません。ご自身のケースについては、税理士などの有資格専門家に確認してください。

 

Vietnam Worker Sentiment Studyのデータは、日本人候補者も給与より労働条件を重視するという意味ですか?

いいえ。このデータはベトナム人就業者を対象としたものであり、日本人候補者の希望を示すものではありません。本記事では、給与以外の条件とのトレードオフが、少なくとも実際の労働市場で確認されていることを示すための例として使用しています。個人の優先順位を示すものではありません。

 

海外のオファーを検討する際、候補者が最も陥りやすい間違いは何ですか?

額面の給与だけを現在の日本での給与と比べてしまい、手取り額や現地の生活費、会社からのサポート、その仕事で得られるキャリア上の価値や次の転職へのつながりを十分に考慮しないことです。

Reeracoenの採用支援経験では、表面的な給与額だけに注目すると、実際の手取り、生活コスト、会社からのサポート、将来のキャリアの広がりといった重要な要素を見落とす可能性があります。

 

著者について

Valerie Ong(ヴァレリー・オン) / Reeracoen Group Regional Head of Marketing

Valerieは、Reeracoen Groupのアジア全域におけるコンテンツ制作と市場分析を統括しています。Reeracoenの各分野に精通した採用コンサルタントと緊密に連携しながら、採用データ、給与水準、労働市場の動向を、企業やプロフェッショナルが活用できる実践的な情報として発信しています。その活動には、「Salary Guide」「Hiring Pulse」「Hiring Manager Survey」をはじめとするReeracoen独自の調査データが活用されています。

 

参考資料

  • OECD. Purchasing Power Parities. https://www.oecd.org/en/data/datasets/purchasing-power-parities.html

  • OECD. Average Annual Wages. https://www.oecd.org/en/data/indicators/average-annual-wages.html

  • 国税庁「海外勤務と非居住者の税務に関する案内」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1920.htm

  • 国税庁「租税条約および国際税務に関する一般情報」 https://www.nta.go.jp/english/taxes/individual/12006.htm

  • Reeracoen Vietnam. (2026). Vietnam Worker Sentiment Study 2026 (n=254, with Rakuten Insight).

 

免責事項

本記事は、公開時点において信頼できると判断したOECDおよび日本の国税庁の公開情報、ならびにReeracoen独自の調査に基づき、Reeracoenが作成したものです。一般的な情報提供および教育を目的としており、個別の税務、財務、法務に関する助言を提供するものではありません。税務上の取扱いは、個人の状況および適用される法令・租税条約によって異なります。税務上の扱いに基づいて判断を行う前に、税理士などの有資格専門家にご相談ください。本記事で紹介するTotal Offer FrameworkはReeracoen独自の実務ツールであり、OECDまたは引用したいずれの調査によっても検証されたものではありません。キャリアに関する意思決定を行う際は、ご自身の状況に応じた専門家等の助言もご検討ください。