バイリンガル人材不足の実態:Reeracoenの地域データから見るシンガポールとベトナムの採用事情

September 09, 2026 11:00

ベトナムでは86%、シンガポールでは80.3%の企業が、採用における最大の課題として「給与に対する期待」を挙げています。

この数字だけを見ると、シンガポールとベトナムの両市場で事業を展開する日本企業は、共通の採用戦略を適用すればよいように思えます。しかし、実際はそうではありません。

数字の背景を見ると、シンガポールとベトナムの採用市場には大きな違いがあります。両市場に同じ採用戦略を適用すると、少なくとも一方では十分な成果が得られない可能性があります。表面的な数値が似ているからこそ、こうした違いは見落とされやすいのです。

 

両市場が同じ採用課題を抱えているという前提で、採用予算や本社の関与、現地の採用権限を一律に配分すると、一方では優先度の低い課題にリソースをかけすぎる一方で、もう一方では本来対応すべき課題への対応が不十分になる可能性があります。

本記事では、Reeracoenの「Singapore Hiring Manager Survey 2025/2026」(n=375)と「Vietnam Employer Hiring Study 2026」(n=51)のデータをもとに、両市場の違いがどこにあるのか、また、シンガポールとベトナムで事業を展開する日本企業が、それぞれの市場でどのような採用戦略を取るべきかを解説します。


 

シンガポールの採用市場の実情

シンガポールでは、80.3%の企業が「給与に対する期待」を最大の採用課題として挙げており、次いで65.1%が「スキルのミスマッチ」を課題として挙げています。これらの数値以上に注目すべきなのは、企業の採用に対する自信の低さです。市場環境が全体として安定しているにもかかわらず、必要なスキルを持つ現地人材を確保できることに「非常に自信がある」と回答した企業は、わずか23.2%でした。さらに、ReeracoenのSalary Guideによると、2025年の製造業の離職率は26%に達しており、シンガポールの採用市場が抱える課題をより明確に示しています。

シンガポールの採用課題は、人材を採用する段階だけにあるわけではありません。むしろ、採用した人材の定着にも同程度、あるいはそれ以上の課題が見られます。

 

ベトナムの採用市場の実情

ベトナムでは、「給与に対する期待」がさらに大きな採用課題となっており、86%の企業がこれを挙げ、他の課題を大きく上回っています。さらに、53%の企業が「技術・専門スキルを持つ人材の不足」、39%が「中間管理職の不足」、29%が「他の外資系企業との人材獲得競争」を課題として挙げています。

特に注目すべきなのは、ベトナムでは29%の企業が「語学力の不足」を主要な採用課題として挙げている一方、シンガポールでは同様の項目が独立した課題として示されていない点です。この違い自体が、両市場の特徴を示す重要なポイントといえます。

 

比較で見る:シンガポールとベトナムの採用市場の違い

シンガポール(採用担当者調査2025/2026, n=375)

ベトナム (企業採用調査 2026, n=51)

給与に対する期待:80.3%(最大の採用課題)

給与に対する期待:86%(最大の採用課題)

スキルのミスマッチ:65.1%

技術・専門スキルを持つ人材の不足:53%

必要なスキルを持つ人材の確保に「非常に自信がある」:23.2%

中間管理職の不足:39%

製造業の離職率:26%(2025年、Salary Guide 2025/2026)

外資系企業との人材獲得競争を課題として挙げた企業:29%

バイリンガル・専門人材の構造的な不足(Hiring Pulse Q1 2026)

語学力の不足:29%

 

シンガポールとベトナムの違いが最も表れるポイントと、その重要性

最も注目すべき違いは、共通する給与面の課題ではなく、バイリンガル人材の不足がそれぞれの市場でどのように表れているかという点です。この違いによって、日本企業が注目すべきポイントも変わってきます。ベトナムでは、29%の企業が「語学力の不足」を独立した主要な採用課題として挙げています。

一方、シンガポールでは「語学力の不足」は独立した課題として示されておらず、より広い「スキルのミスマッチ」(65.1%)や、採用に対する自信の低さ(「非常に自信がある」と回答した企業は23.2%)の中に含まれていると考えられます。ReeracoenのHiring Pulseでも、シンガポール市場ではバイリンガル人材の構造的な不足が指摘されており、Hiring Manager Surveyで独立した項目として示されていないものの、こうした傾向を裏付けています

 

両市場で事業を展開する企業にとって重要なのは、ベトナムではバイリンガル人材の不足が現地の採用担当者に明確な課題として認識されやすく、その結果、本社にも具体的な採用課題として報告されやすいという点です。一方、シンガポールでは、同様の課題が「バイリンガル人材不足」として明確に認識されるというより、採用全般の難しさや採用への自信の低さとして表れやすい傾向があります。そのため、特定の課題として報告されにくく、本社が問題の深刻さを見落とす可能性があります。

 

日本本社に報告するリージョナルHR担当者にとっては、ベトナムのバイリンガル採用の課題は明確な問題として把握しやすい一方、シンガポールでは、現地チームから明確に報告されにくいため、採用や定着に関するデータを通じて課題を把握する必要があります。

例えば、シンガポールとベトナムで「採用までの期間」「オファー承諾率」「採用単価」といった同じKPIを使って、四半期ごとに採用状況を確認している企業を考えてみましょう。ベトナムでは、バイリンガル人材の採用が長期化した場合、現地チームから「語学力の不足」が明確な要因として報告され、具体的な対応につながりやすいと考えられます。一方、シンガポールでは、同様の課題が人材の定着率やオファー承諾率の緩やかな低下として表れやすく、問題が明確になりにくい傾向があります。そのため、「採用までの期間」だけを追うと、シンガポールの課題を見落とす可能性があります。


 

リージョナル採用戦略への示唆

両市場に同じ採用戦略を適用しない

ベトナムでは人材不足の課題が比較的明確に表れる一方、シンガポールでは、採用への自信の低さや人材定着の課題として、より捉えにくい形で表れます。そのため、両市場に共通するKPIだけで採用状況を判断すると、少なくとも一方の市場で本来注目すべき課題を見落とす可能性があります。

 

ベトナムでは、バイリンガル人材の採用に専用の予算を確保する

ベトナムでは、「語学力の不足」が明確な採用課題として認識されているため、バイリンガル人材の採用には専用の予算と採用期間を確保することが重要です。一般的な採用目標の一部として扱うと、人員数など、より目に見えやすい目標が優先され、バイリンガル人材の採用が後回しになる可能性があります。

 

シンガポールでは、採用への自信の低さを「採用」だけでなく「人材定着」の課題として捉える

製造業の離職率が26%に達していることを踏まえると、シンガポールでは人材の採用だけでなく、定着にも同等、あるいはそれ以上に投資すべきです。

 

最新データをもとに、市場ごとに報酬水準を設定する

一方の市場で競争力のある報酬水準が、もう一方の市場でもそのまま通用するとは限りません。ベトナムとシンガポールでは給与水準の動向が異なるため、それぞれの市場に応じた基準を設定する必要があります。

 

Reeracoen Japanと考える、アジア地域の採用戦略

Reeracoen Japanは、シンガポールやベトナムをはじめとする各国の専門コンサルタントと連携し、日本企業のアジアにおける採用戦略の構築を支援しています。地域共通の採用方針を一律に適用するのではなく、それぞれの市場に合わせた採用戦略をご提案します。現在の採用戦略について、ぜひReeracoen Japanにご相談ください。

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シンガポール・ベトナムの日系企業での転職をお考えの方へ

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よくある質問

日系企業にとって、シンガポールとベトナムではどちらの方が採用難易度が高いですか?

両市場とも「給与に対する期待」が最大の採用課題となっていますが、その背景は異なります。ベトナムでは、「技術・専門スキルを持つ人材の不足」「中間管理職の不足」「語学力の不足」など、課題が比較的明確に表れています。一方、シンガポールでは、採用への自信の低さ(「非常に自信がある」と回答した企業は23.2%)や、製造業の高い離職率(26%)など、より捉えにくい形で課題が表れています。

 

なぜベトナムでは「語学力の不足」が課題として挙げられている一方、シンガポールでは挙げられていないのでしょうか?

これは、実際の課題そのものの違いというよりも、それぞれの調査における項目設定の違いによる可能性があります。ReeracoenのHiring Pulseでは、シンガポールでもバイリンガル人材の構造的な不足が指摘されています。ただし、Hiring Manager Surveyでは、Vietnam Employer Hiring Studyのように独立した項目として集計されていません。

 

シンガポールとベトナムで、同じ報酬体系を設定してもよいのでしょうか?

いいえ。報酬水準は、最新のデータをもとに市場ごとに設定する必要があります。一方の市場を基準にした報酬体系をそのまま適用すると、もう一方の市場では相場より低すぎたり、高すぎたりする可能性があります。

 

なぜベトナムでは中間管理職が不足しているのでしょうか?

Reeracoenの「Vietnam Employer Hiring Study 2026」では、39%の企業が中間管理職の不足を主要な採用課題として挙げています。これは、外資系企業の事業拡大に対して、経験を持つ現地管理職人材の供給が追いついていない状況を示しています。

 

シンガポールの製造業における高い離職率は、採用戦略に影響するのでしょうか?

はい。Reeracoenの「Salary Guide 2025/2026」では、2025年の製造業の離職率は26%に達しています。シンガポールでは採用への自信も比較的低いことから、人材定着を採用とは別の課題として考えるのではなく、採用戦略の一部として捉えることが重要です。

 

リージョナルHR担当者は、シンガポールとベトナムの採用課題を日本本社にどのように報告すべきでしょうか?

ベトナムでは、バイリンガル人材やスキルの不足が具体的な採用課題として表れやすく、通常の報告を通じて本社にも伝わりやすい傾向があります。一方、シンガポールでは、同様の課題が採用全般の難しさや離職として表れやすく、明確な問題として報告されない場合があります。そのため、具体的な報告を待つのではなく、定着率や採用への自信に関するデータから課題を把握することが重要です。

 

著者について

Valerie Ong(ヴァレリー・オン) / Reeracoen Group Regional Head of Marketing

Valerieは、アジア全域におけるReeracoenのコンテンツおよびマーケットインサイトを統括。各地域の採用コンサルタントと連携し、採用データや給与水準、労働市場の動向を、企業や求職者に役立つ実践的な情報として発信しています。また、本分析はSalary Guide、Hiring Pulse、Hiring Manager Surveyなど、Reeracoen独自の調査に基づいています。

 

参考資料

免責事項

本記事は、公開時点で信頼できると考えられる公開情報およびReeracoen独自の調査データに基づいて作成しています。一般的な情報提供を目的としたものであり、専門的な人事・法務・財務上の助言を提供するものではありません。