「ASEAN」を一つの市場として捉えない―日本企業が進出前に知っておくべきこと

東南アジアへの進出を検討する日本企業の間では、「ASEAN」が一つの成長市場であるかのように捉えられることがあります。しかし、Reeracoenの最新調査からは、こうした捉え方が事業計画と人材計画に影響を及ぼす可能性があることが分かります。
Reeracoen GroupはRakuten Insightと共同で、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6カ国における消費者および企業のリーダー3,630人を対象に、The Great Restructuring: ASEAN Consumer & Business Pulse Survey 2026 を実施しました。なお、日本は本調査の対象に含まれていないため、本調査の結果はこれら6つのASEAN市場に関するものであり、ASEANと日本を比較するためのものではありません。
調査結果からは、6つの市場がそれぞれ異なる特徴を持つことが分かります。インドネシアは企業の景況感が最も高く、ベトナムは消費者の楽観度と積極的な採用拡大でトップとなりました。タイは投資を増やしている企業の割合が最も高く、シンガポールではAI・テクノロジーが成長機会として最も重視されています。すべての指標でトップとなる市場はありません。一方、人材採用については共通した傾向が見られ、6市場すべてで、必要な人材を厳選して採用する姿勢が主流となっています。
ASEANで事業を展開している、または進出を検討している日本企業にとって重要なのは、地域全体の戦略を各市場の状況に合わせて実行することです。問うべきなのは、どのASEAN市場が「最も優れているか」ではなく、どの市場が自社の事業目的に適しているのか、そしてその市場にどのような人材戦略が必要なのかという点です。
調査について
The Great Restructuring は、Reeracoen GroupとRakuten Insightが共同で実施した、ASEAN6市場を対象とする調査です。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの消費者および企業のリーダー3,630人を対象としています。なお、日本は調査対象に含まれていません。本記事では、日本との比較は行わず、ASEAN6市場の調査結果を日本企業の視点から読み解いています。
主なポイント
● 日本は本調査の対象に含まれておらず、調査結果はASEAN6市場に関するものです。
● 事業、投資、人材に関するすべての指標で、常にトップとなる市場はありません。
● 6市場すべてで、必要な人材を厳選して採用する姿勢が主流となっており、その割合は32〜47%です。
● ベトナムは積極的な採用拡大で16%、タイは投資増加で28%、シンガポールはAI・テクノロジーを成長機会と捉える割合で33%、インドネシアは企業の景況感で66%と、それぞれ最も高い数値を示しています。
● 日本企業は、一つの国の結果をASEAN全体に当てはめるのではなく、市場ごとに人材計画を検討することが重要です。
2026年 ASEAN市場の概況
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市場 |
調査結果 |
ポイント |
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インドネシア |
企業の景況感: 66% |
6市場で最も高い水準 |
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ベトナム |
消費者楽観度 48%、積極的な採用拡大 16% |
成長の勢いが比較的強い |
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タイ |
投資を増やしている企業の割合: 28% |
投資を増やしている企業の割合が最も高い |
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シンガポール |
AI・テクノロジーを成長機会と捉える割合: 33% |
テクノロジーへの注目度が最も高い |
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6市場すべて |
人材を厳選して採用する姿勢: 32%–47% |
地域全体に共通する採用傾向 |
まず押さえるべきポイント:ASEANを一つの労働市場として捉えない
6つの市場は、企業の景況感、投資意欲、キャリアの流動性、成長の優先事項において大きく異なります。本レポートでは、ASEAN全体を一括りにするのではなく、各国それぞれの特徴を示しています。
日本の本社が地域戦略を立てる際には、この違いを十分に考慮する必要があります。ASEAN全体を一括りにすると、各市場が同じような状況にあるかのような誤った認識につながる可能性があるためです。
たとえば、シンガポールで採用が難しい職種でも、ベトナムやマレーシアでは候補者を取り巻く環境が異なる場合があります。本調査はすべての職種を対象としているわけではありませんが、市場ごとに採用を取り巻く条件が異なることは明確に示されています。
地域全体の方針には一貫性を持たせつつ、人材に関する前提は各市場の状況に合わせて調整することができます。
各市場に共通するのは、必要な人材を厳選して採用する姿勢
6つの市場すべてで、必要な人材を厳選して採用する姿勢が主流となっており、その割合は32〜47%です。一方、積極的に人員を増やしている企業は7〜16%にとどまります。
つまり、市場の景況感が良好だからといって、採用を無制限に拡大できると考えるべきではありません。積極的な採用拡大の割合が最も高いベトナムでさえ、地域全体では慎重に人材を選んで採用する姿勢が一般的です。
Reeracoenでは、特に地域横断型やクロスボーダーのポジションについて、各ポジションに必要な能力と、そのポジションが必要となる事業上の理由を明確にすることを推奨しています。
市場ごとに異なる戦略上のポイント
インドネシアは、企業の景況感が66%と6市場で最も高い水準を示しています。ベトナムは、消費者の楽観度が48%、積極的な採用拡大が16%と、いずれも最も高い結果となりました。タイは投資を増やしている企業の割合が28%で最も高く、シンガポールではAI・テクノロジーを成長機会と捉える割合が33%でトップとなっています。
ただし、これらの指標を単純に一つのランキングとして比較することはできません。 ある市場が一つの指標でトップであっても、別の指標でもトップとは限らないためです。
そのため日本企業が市場を選定し、人材計画を立てる際には、「どの国が最も優れているか」という単純な比較ではなく、複数の要素を総合的に検討することが重要です。
人材戦略は各市場の状況に合わせる
キャリアの流動性も6市場で異なり、シンガポールの13%からインドネシアの29%まで差があります。また、AIや自動化が転職を考えるきっかけとしてどの程度影響しているかも、市場によって異なります。
なお、本調査では日本の人材の意識については調査していないため、ASEANの候補者が日本の候補者と比べて転職に積極的なのかどうかを判断することはできません。
一方で、本調査からは、ASEAN各市場における採用ブランディング、採用スケジュール、候補者とのコミュニケーションを検討するうえで役立つ、各市場の状況を把握することができます。
日本企業が実践すべき5つのポイント
1. 進出前に、国ごとの人材計画を検討する
地域全体の平均だけで判断するのではなく、各市場の採用動向、事業上の優先事項、候補者を取り巻く状況を踏まえて検討することが重要です。
2. 現地で必要となる人材・スキルを明確にする
現地市場の知識が必要なポジションと、地域統括や本社で担えるポジションを切り分けます。
3. 慎重な採用を前提に、十分な採用期間を見込む
企業が採用対象を絞っている市場では、採用条件を明確にすることが重要です。現実的な採用要件に加え、迅速に意思決定できる体制や、候補者にとって魅力的な入社理由を用意する必要があります。
4. テクノロジー投資と人材戦略を連動させる
AIやテクノロジーは、ASEAN全体で重要な成長テーマとなっています。こうした分野への投資を進める際には、その投資を実際に活かすために、どのような人材やスキルが必要なのかをあわせて検討することが重要です。
5. ASEANのデータを、日本との比較ではなく市場理解のために活用する
日本は本調査の対象に含まれていないため、「ASEANの方が日本よりも楽観的である」「人材の流動性が高い」「テクノロジー志向が強い」といった比較は避ける必要があります。
よくある質問
日本は『The Great Restructuring』の調査対象に含まれていますか?
いいえ。本調査の対象は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6市場で、日本の回答者や日本国内の企業データは含まれていません。
日本企業にとって、最も有望なASEAN市場はどこですか?
本調査では、特定の一市場を「最も優れている」とは位置づけていません。市場ごとに強みを示す指標が異なるため、どの市場が適しているかは、企業のビジネスモデル、顧客、投資の優先事項、人材要件によって異なります。
採用拡大が最も進んでいる市場はどこですか?
ベトナムは、積極的に採用を拡大している企業の割合が16%と、6市場で最も高くなっています。ただし、ベトナム企業の多くが採用を拡大しているという意味ではなく、地域全体では必要な人材を厳選して採用する姿勢が主流です。
ASEANでは、必要な人材を厳選して採用する傾向が一般的ですか?
はい。調査対象となった6市場すべてで、この採用姿勢が主流となっており、その割合は32〜47%です。
この調査結果を日本と比較することはできますか?
本調査だけでは比較できません。日本は調査対象に含まれていないため、ASEANと日本を比較するには、同等の日本のデータを別途用意する必要があります。
詳細な調査結果や市場ごとの比較、2026年のASEAN市場の見通しは、レポート全文でご確認いただけます。
ASEANでの採用・人材戦略をご検討の企業様へ
ASEAN各市場における人材戦略や採用支援については、Reeracoen Groupにご相談ください。各国の現地チームが、地域全体の戦略をそれぞれの市場に適した採用計画へ落とし込むサポートを行います。
著者について
Valerie Ong(ヴァレリー・オン)/ Reeracoen Group Regional Head of Marketing,
Valerie Ongは、Reeracoen GroupのRegional Head of Marketingとして、アジア全域のコンテンツおよび市場インサイトを統括しています。Reeracoenの採用コンサルタントと連携しながら、採用データ、給与水準、労働市場のトレンドを、企業やビジネスパーソンにとって実践的な情報へと落とし込んでいます。また、Salary Guide、Hiring Pulse、Hiring Manager Surveyなど、Reeracoen独自の調査データも活用しています。
参考資料
本記事で紹介している調査データおよび市場比較は、上記の調査結果に基づいています。一方、実践的な提言や今後に関する示唆については、Reeracoenによる解釈であり、調査で実際に得られた結果とは区別して記載しています。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、公開時点で得られている調査結果および市場動向に関する解釈に基づいています。事業環境や採用動向、キャリアの結果は、市場、業界、個々の状況によって異なります。また、本調査の結果は、将来の採用、投資、収入、経済状況などを保証するものではありません。




