海外拠点のリーダーは誰が担うべきか? 駐在員と現地人材のリーダーシップを考える日本本社向けフレームワーク

多くの日本本社では、駐在員と現地人材のどちらにリーダーシップを担わせるかという判断を、市場参入時に一度決めたまま、その後は見直さないことがあります。
しかし、本来そうあるべきではありません。
海外拠点に適したリーダーシップモデルは、事業の成熟に伴って変化します。初年度には適切だった体制が、誰も明確に方針転換を決めないまま、5年後には実態に合わなくなっていることもあります。
本記事は、現地リーダーが駐在員より優れている、あるいはその逆だと主張するものではありません。
日本本社が繰り返し向き合うべき具体的な問いを整理するためのフレームワークです。すなわち、「現在の海外拠点の状況を踏まえたとき、駐在員と現地人材によるリーダーシップの適切なバランスは何か」「そのバランスを今も意図的に見直しているのか、それとも当初の体制をそのまま続けているだけなのか」という問いです。
海外人材戦略は人事だけの課題ではなく、経営の重要テーマに
(出典:JETRO「2025年度 海外進出日系企業実態調査」) |
このデータから直接わかるのは、人材確保の難しさが海外で事業を展開する多くの日系企業に広がり、相当数の企業で悪化していること、そして企業は採用だけでなく、評価制度、キャリア開発、柔軟な働き方など複数の手段で対応していることです。
一方、この調査から駐在員と現地人材のどちらがリーダーを担うべきかという具体的な結論は導けません。JETROの調査は、駐在員主導の経営が人材難を引き起こしていることも、リーダーシップの現地化が人材難を解消することも示していません。リーダーシップ体制と人材確保の難しさを結びつける見方は、以下で示すReeracoen独自の解釈です。これは、リーダーシップモデルを見直す際の一つの判断材料として提示するものであり、データそのものが証明する結論ではありません。
本社と現地拠点の連携そのものが経営課題になる理由
JETROが2025年度にアジア・オセアニアの日系企業5,109社を対象に実施した別の調査では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含む文脈で、本社主導の取り組みと海外子会社での実行・対応をどのように両立させるかという課題が取り上げられています。これは、本社と現地拠点の連携そのものが、上記の人材確保の問題とは別に、地域の日系企業にとって実際の経営・オペレーション上の課題になり得ることを示しています。
ただし、この調査結果はリーダーシップの現地化を直接測定したものではなく、現地マネジメントに全面的な裁量を与えれば連携上の課題が解消されることを示すものでもありません。調査が示しているのは、本社の方針と現地での実行をすり合わせる際に摩擦が生じることがあるという点であり、特定の解決策を示しているわけではありません。Reeracoenでは、この連携上の摩擦もまた、上記の人材課題とあわせて、日本本社が海外拠点で実際にどのように意思決定が行われているかを定期的に見直すべき理由の一つだと考えています。別個の問題として切り離して考えるのではなく、関連する経営課題として捉えることが重要です。
適切なリーダーシップモデルを判断するためのフレームワーク
以下は、アジア各地で日系企業の採用支援を行ってきたReeracoenの経験と、上記のデータを踏まえて作成した独自のコンサルティングフレームワークです。JETROが検証したモデルではなく、2つのJETRO調査が以下の5つの問いを直接測定しているわけでもありません。
唯一の正解を導く公式ではなく、日本本社が定期的に議論すべきテーマを整理するための出発点としてご活用ください。
1. 海外拠点はどの程度成熟しているか?
市場でのポジション、サプライヤーとの関係、基本的なコンプライアンス体制をまだ構築している段階の拠点では、一般的に本社との緊密で直接的な連携が有効です。一方、数年にわたる安定した事業実績があり、現地の顧客・サプライヤー基盤が確立され、本社が確認できる実績も積み上がっている拠点では、立ち上げ期と同じレベルの直接的な監督は不要になっている可能性があります。
2. 重要な知識は現在どこに蓄積されているか?
過去の意思決定の背景、現地市場の実態、重要な人間関係を理解している人材が、まもなく交代時期を迎える1~2名の駐在員マネージャーに集中している場合、その知識が彼らの帰任とともに失われるリスクがあります。一方、そうした知識が勤続年数の長い現地チーム全体に共有・蓄積されているなら、実際の現地組織の対応力は、現在の正式なリーダーシップ体制が示す以上に高まっている可能性があります。
3. 本社の意思決定が現地の実行スピードを遅らせていないか?
これは推測ではなく、実際に確認する価値があります。たとえば、一定の重要性を持つ現地の意思決定について、本社の承認を得るまでに数時間ではなく数日かかるケースがどの程度あるか、また同様の制約を持たない競合他社が同種の判断をより速く進めていないかを確認します。本社の承認プロセスが原因で現地の実行が継続的に遅れているのであれば、それはほかの要因による実行上の問題とは切り分けて、経営レベルで検討すべき具体的なサインです。
4. 現地マネジメントには、人材の採用・育成・定着に必要な権限があるか?
採用、報酬、昇進に関する権限が極めて限定されている現地マネージャーは、本人の能力にかかわらず、強い現地チームを構築し、定着させることが難しくなる可能性があります。形式上は現地のリーダーシップ体制が整っていても、採用や報酬に関する判断が日常的に日本本社へ回されているのであれば、その実態を具体的に確認する必要があります。JETROのデータが示すように、現地人材の確保がますます難しくなる中で、この点は海外拠点が人材獲得競争に対応できるかどうかに直接影響します。
5. 日本本社との密接な連携を本当に維持すべき領域は何か?
すべての機能が同じように現地化に適しているわけではありません。日本本社の商品ロードマップに関する最新かつ深い知識、親会社固有のコンプライアンス要件、日本にいる顧客との直接的な関係管理などが求められる役割では、拠点が成熟し、その他の領域が十分に現地化されていても、駐在員や日本本社の継続的な関与が必要な場合があります。問うべきなのは「すべてを現地化するか」ではなく、「駐在員によるリーダーシップがもたらす本社との密接な連携を、今も必要とする具体的な機能・専門領域は何か」です。
各リーダーシップモデルがもたらすもの
駐在員によるリーダーシップは一般的に、企業文化の浸透、日本本社との戦略的な方向性の一致、親会社から受け継ぐ技術・品質基準に関する知識、本社との連携を要する意思決定を円滑に進めるための確実な連携体制をもたらします。
一方、現地人材によるリーダーシップは、間接的には得にくい現地市場への深い理解、駐在員の交代に左右されない継続性、現地人材や顧客からの信頼、意思決定のスピード、そして数年ごとにリセットされるのではなく時間とともに蓄積される組織知をもたらします。
どちらか一方が本質的に優れているわけではありません。適切なバランスは、上記5つの問いに照らした現在の拠点の状況によって異なります。
地域の市場環境は「判断材料」であって「結論」ではない
Reeracoen独自の地域調査も、現地の人材市場がどれほど厳しさを増しているかを考えるうえで参考になります。ただし、これは市場環境を理解するための背景情報として読むべきものであり、現地人材によるリーダーシップが駐在員によるリーダーシップを上回るという証拠ではありません。
Reeracoen Taiwanの「Taiwan Employer Outlook Report 2026」では、2025年に台湾の日系企業が行った採用の54.1%が退職者の補充を目的としており、57.4%の企業が採用上の最大の課題として「労働市場全体における人材不足」を挙げています。
また、Reeracoenの「Vietnam Employer Hiring Study 2026」では、ベトナムの調査対象企業の61%が日系企業で、そのうち74%が従業員200人未満でした。
つまり、こうした現地市場の課題に直面しているのは大企業だけではなく、中堅規模の日系企業も同様です。
これらの地域データは、多くの日系企業が事業を展開する市場で、すでに採用と人材定着が厳しい状況にあることを示しています。
ここでこのデータを紹介する目的は、上記の問い3と4、すなわち「意思決定のスピード」と「現地での採用権限」を真剣に検討する必要性を示すことであり、特定のリーダーシップモデルの方がこうした市場で優れていると証明するためではありません。
日本本社のための意思決定チェックリスト
1. 今四半期中に、現在の海外拠点について上記5つの問いを当てはめて検討する。一度きりの採点表ではなく、議論を整理するためのフレームワークとして活用する。
2. 現地マネジメントが肩書きや報告ライン上だけでなく、採用や報酬に関する実質的な決定権を持っているかを具体的に確認する。
3. 日本本社との密接な連携が今も本当に必要なのは「どの部門か」ではなく「どの具体的な機能・専門領域か」を特定し、その理由を明確にする。
4. 最近の現地での意思決定をいくつか抽出し、判断から承認までに要した時間を確認する。本社の承認プロセスが、実際に現地の実行スピードを遅らせていないかを確認する。
5. 駐在員の交代や人材定着の問題が起きてから見直すのではなく、あらかじめ定めたスケジュールに沿って定期的にこの評価を行う。
海外拠点のリーダーシップ体制をReeracoen Japanと見直す
Reeracoen Japanは、海外拠点のリーダーシップ体制や人材戦略の見直しを支援しています。アジア各地のReeracoen専門コンサルタントの知見と採用ネットワークを活用し、日本本社による意思決定の整理・検討から、現地リーダー候補の採用・育成まで、各社の状況に応じてサポートします。
海外拠点のリーダーシップ体制や現地人材の採用・育成について、ぜひ当社コンサルタントにご相談ください。
よくある質問
JETROの調査は、駐在員によるリーダーシップが海外での人材不足を引き起こしていることを示していますか?
いいえ。JETROの2025年度調査が示しているのは、海外の日系企業の多くで人材確保が難しくなっており、その状況が悪化していること、そして企業が採用だけでなく、福利厚生、給与、キャリア開発などの改善にも取り組んでいることです。リーダーシップ体制と人材不足との因果関係を測定・証明した調査ではなく、その関連性自体が調査対象になっているわけでもありません。
すべての海外拠点で、一定の規模や年数に達したらリーダーシップを現地化すべきということですか?
いいえ。本記事で参照している2つのJETRO調査はいずれも、どの規模、比率、事業段階でリーダーシップの現地化が適切になるかという具体的な基準を示していません。本記事の5つの問いは、JETROのデータから導かれた公式ではなく、個々のケースに応じて判断するためにReeracoenが独自に作成したコンサルティングツールです。
JETROの調査では、日本本社と海外子会社の連携についてどのようなことが示されていますか?
JETROの2025年度アジア・オセアニア調査では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含め、本社主導の取り組みと海外子会社での実行をすり合わせる際の課題が取り上げられています。これは、本社と現地拠点の連携が実際のオペレーション上の課題になり得ることを示しています。ただし、リーダーシップ体制そのものを直接測定したものではなく、現地側に全面的な裁量を与えればこの摩擦が解消されると示しているわけでもありません。
現地マネジメントには、採用や報酬に関するすべての権限を常に与えるべきですか?
本記事は、あらゆるケースで現地側に全面的な裁量を与えるべきだと主張しているわけではありません。一方で、現地マネジメントに強い現地チームの構築と定着を期待するのであれば、採用や報酬に関する一定の実質的な権限がなければ、現実的にその役割を果たすことは難しいというのが、Reeracoenの採用支援経験に基づく考え方です。どの程度の権限を、どの意思決定に対して持たせるかは、各拠点の状況によって異なります。
日本本社は、海外拠点のリーダーシップ体制をどのくらいの頻度で見直すべきですか?
本記事で参照しているデータから、唯一の正しい見直し頻度が示されているわけではありません。Reeracoenでは、駐在員の交代、退職、人材定着の問題などが発生してから議論を始めるのではなく、あらかじめ決めたスケジュールに沿って定期的に見直すことを推奨しています。
著者について
Valerie Ong(ヴァレリー・オン) / Reeracoen Group Regional Head of Marketing
Valerieは、Reeracoen Groupのアジア全域におけるコンテンツ制作と市場分析を統括しています。Reeracoenの各分野に精通した採用コンサルタントと緊密に連携しながら、採用データ、給与水準、労働市場の動向を、企業やビジネスパーソンが活用できる実践的な情報として発信しています。その活動には、「Salary Guide」「Hiring Pulse」「Hiring Manager Survey」をはじめとする、Reeracoen独自の調査データが活用されています。
参考資料
-
JETRO. (2025). FY2025 Survey on Business Conditions of Japanese Companies Overseas. https://www.jetro.go.jp/en/news/releases/2025/04461099867183d4.html
-
JETRO. (2026). FY2025 Asia/Oceania Survey of Japanese-Affiliated Companies. https://www.jetro.go.jp/en/news/releases/2026/7dc6068af2960be9.html
-
Reeracoen Taiwan. (2026). Taiwan Employer Outlook Report 2026 (15th Edition, n=183).
-
Reeracoen Vietnam. (2026). Vietnam Employer Hiring Study 2026 (n=51)
免責事項
本記事は、公開時点において信頼できると判断したJETROの公開情報およびReeracoen独自の調査に基づき、Reeracoenが作成したものです。一般的な情報提供および教育を目的としており、専門的な人事、法務、財務に関する助言を提供するものではありません。本記事で紹介するコンサルティングフレームワークは、参照しているJETRO調査を参考にしたReeracoen独自の実務ツールであり、JETROが検証・承認したものではありません。各社の状況に応じて適切に判断のうえご活用ください。事業上の意思決定を行う際は、必要に応じて各社の状況に即した専門家の助言を受けることを推奨します。市場環境は変化する可能性があり、本記事の情報は公開日時点で入手可能なデータに基づいています。



